シェフ貫田の北海道・うまうま大辞典
北海道のおいしい食べものや熱心な生産者を紹介する旅日記
- 2013/02/02[この記事のエリア] 札幌
- かけがえのない方との別れ
2月1日、
札幌で
故・辻井達一さんの
お別れの会が行われました。
辻井さんは、湿原の世界的な研究家で、
北海道環境財団の理事長をされ、
昨年、日本人で初の
「ラムサール賞・科学部門」
を受賞しています。
幅広い活動とフットワークのよさで知られ、
世界の各地にいらっしゃると思いますが、
北海道には、さまざまの分野でファンが多いと思います。
会場には、札幌はもとより、各地から多くの参列者がつめかけ、
500席用意した(らしい)椅子は、開始前から足りなくなり、
会場後方には立っている方も多くいました。
まわりから、先生と呼ばれて親しまれた
「辻井先生」は、若い人にも、とても親切に接してくれました。
辻井先生との出会い
わたくしは、35才のホテル料理長で、道庁地域振興課にあった
北海道地域づくりアドバイザーという仕事でお会いしました。m(__)m
その時は、私が中学校時代から見ていた花の色で検索する
植物図鑑の有名な先生だと認識していました。
その後、湿原の研究者であることを知り、
「湿原のワイズユース(賢明利用)」を説かれていました。
私が西洋料理のシェフということもあり、お会いするたび、
食べもののことで、おもしろいお話を伺いました。
イギリスと同じように泥炭を使ったウイスキーを北海道でつくりたいとか、
フランスでサンゴ草は、食用にされている、など。
*実際に私有地の自生サンゴ草でピクルスをつくってみました。
*また、先生からOKをもらい、浜頓別町では、
「ラムサール・サラダ」という新ご当地メニューもつくってきました。
カキと湿原のおいしいつながり
私の著作でもご指導をくださいました。
カキの味に湿原が関係しているというのです。
はじめて実感したのは、厚岸湖。
現地を訪ねて、湖と湿原を流れる川の
水をなめて確かめてみました。
すると、そのカキには、ほんとうに、川の風味が出ていました。
何度か通ううち、季節によっても、カキの味が違うことを感じました。
川水は、
春、雪解け後に湿原の栄養分を湖に流出され、
カキの味が濃厚になり、
冬の透き通ったとき、
カキの味もすっきりとした味わいだったのです。
はじめは、ピンとこなかったのですが、先生の助言のおかげで、
それ以来、近海の魚介類の味は、上流の自然環境が影響することを
身をもって体験しました。
今では、昆布出しを味わってコンブの産地を当てたり、
*コンブの産地がどのまちの、どの川の河口域のものか(笑)
あるいはオホーツク海の
毛ガニのミソの味も、上流の川や森の自然と
からめて考えられるようになりました。
オホーツクの毛ガニは、
食べ比べると、
網走では、カルシウムの甘い味、
紋別では、酸化していない鉄分の味、
枝幸では、硫化水素の香りと鉄分の味
があるように感じています。
辻井さんのすばらしいところ
辻井先生は、若い人にも分け隔てなく接してくれました。
それも、おもしろい発想には、
子どものような顔をして喜んでくださいました。
でも、気のりしないことには、「ツマらん!」のひとこと。
まわりの人は、先生のお話に冷や冷やさせられることもありました。
奇抜な発想で笑わしたり、スピーチで厳しいことを笑顔でおっしゃったりしました。
先生は、お茶目で、
昨年の受賞(前)のパーティでは、
若いお仲間たちから、「湿原大賞」ならぬ、
「失言大将」のボードを受け取り、
大喜び!と友人のブログで見ていました。
(ふつうは怒られてしまいますよね)
この時、白い上着で、その風貌から
「和製カーネルサンダース」とも呼ばれていました。
*写真は、女性たちとうれしそうに写る辻井さん
(お二人ともシェフの大切な友人です)
最後にお礼とおくやみ
わたくしに、北海道をもっとよく知りたい、
食べものと自然のつながりを産地で確かめてみたい、
という思いを持たせてくれた、辻井先生。
たくさんのひとびとから愛された先生ですが、
私もその一人として、これからも、
食べものと自然のおいしい関係を
ひと皿の料理で伝えて行くのが、
わたくしの役目だと思います。
辻井先生、ほんとうにありがとうございます。
心からご冥福をお祈りいたします。
2013/02/02 09:47札幌